館長室より

Director's Room

山形北高語学部の皆さんがパンフを作ってくれました

 県立山形北高等学校(以下、「山形北高校」)は教育資料館と隣接しており、Googleマップで見てみると、教育資料館と山形北高校は、同じ敷地内にあると錯覚するほどです。実は過去に教育資料館の建物は、山形北高校の校舎として使われていた歴史があります。とても縁のある「お隣さん」です。その山形北高校の語学部1・2年生計13名の生徒さんが、教育資料館のパンフレット英語版を作成してくれました。さらに、JR山形駅、北山形駅、山形空港などに設置できるよう足を運んでくれました。語学部の皆さん、大変ありがとうございました。

 パンフレットというものは、来館時間などの基本情報やフロア案内といった客観的な情報だけでは、何か物足りない感じがします。作り手の「思い」「おすすめ」などが盛り込まれていると、生きた情報として読み手にメッセージが伝わり、より発信力のある仕上がりになると思います。
 その点で、このたび作っていただいたパンフレットでは、生徒皆さんならではの視点や興味関心が盛り込まれた「Interesting Facts」というページが注目されます。三か所のポイントが紹介されていますが、そのうち「What is he looking at ?」は、そこに着目しましたか!と、自分にはない視点に感心させられました。「It’s the same now.」と、今も同じであると結んでいます。現役の生徒だからこそのセンスが光りました(ネタバレを避けた説明で、すいません)。そして、全体が手書きの基調であることも、生徒さんたちの気持ちが伝わります。知るだけではなく、楽しむパンフレットになっています。

 当館においても、昨年秋から外国人の入館者が増えています。多くの人々が、この英語版パンフレットを手にし、日本での旅の思い出として、本国に持ち帰ってくれるでしょう。

パンフレットの贈呈式が行われました

大名の花押をたくさん展示しています

 現在、山形県立博物館友の会によるイッピン展「真宗大谷派 正覚山心縁寺寺宝 花押巻子」を開催しています。
 
 花押は、文書の末尾などに署名するかわりに書く記号のようなもので、印判と区別して書判(かきはん)とも言われています。印章と同じように証拠を与えるもので、偽作を防ぐため作成には種々の工夫があったようです。なお、わが国では平安時代には用いられていたそうです。

 このたびは、江戸時代の大名花押60点が張り付けられている12メートル以上にも及ぶ巻物を展示しています。江戸時代中期前後の譜代大名の花押が多く、歴代山形藩主の花押も複数あり、見応えのある資料です。山形市七日町の正覚山心縁寺に所蔵されており、心縁寺は、代々の山形城主より厚い信仰をうけてきた由緒あるお寺です。

 花押の収集品として大変貴重であり、今までお寺の門外に出たことはないとお聞きしています。ご住職の御理解・御厚意により実現しました。1月29日(日)までの展示となっています。ぜひご覧ください。

期間限定の常設展です

 12月11日(日)、プライム企画展「女神たちの饗宴-『縄文の女神』国宝指定10周年-」を無事に終えることができました。たくさんご来館いただき、誠にありがとうございました。

 プライム企画展の終了によって、会場であった第3展示室は、常設の展示に戻りました。「近代山形くらしのうつりかわり」をテーマに、山形県の誕生から現代にいたるまで、近代化していく山形の姿や、そのなかで伝統を受け継ぎ発展させていこうとする人びとのくらしを展示しています。「街角の風俗」「山形の郷土玩具」「雪と山形」「山形のやきもの」を柱に構成しています。くらしに密着したテーマで、懐かしい生活用具もたくさん展示しています。
 これらの展示資料は、第3展示室が「企画展」の会場になると、撤去し収蔵されます。「常設展示」ですが、約半年は見ることができません。いわば期間限定ですので、ぜひご来館ください。

 今年の開館は、12月27日(火)までとなっています。多くのご利用ありがとうございました。来年も引続き、山形県立博物館をよろしくお願いいたします。

館長オススメ展示資料「環頭大刀」

 山形県立博物館における考古部門の展示物と言えば、誰しもが国宝の土偶「縄文の女神」を思い浮かべると思います。世界的な知名度もあり、現在開催中のプライム企画『女神たちの饗宴 ―「縄文の女神」国宝指定10周年―』は、とても好評をいただいております。
 その一方で、考古部門の他の展示資料は、どうしても二番手になりがちです。しかし、ほかにも、山形県の宝がたくさん収蔵・展示されています。そのうち、館長お薦めとして、山形市の大之越(だいのこし)古墳から出土した「環頭(かんとう)大刀」をご紹介します。

 5世紀後半~末の築造と考えられる大之越古墳は、直径約15mの円墳で、山形盆地の南西部に位置する山形市門伝地区にあり、古墳の西方約500m先には、ピラミッドのような富神山がそそり立っています。富神山は石が豊富で、大之越古墳や東北地方最大級の埴輪をもつ円墳の菅沢2号古墳(大之越古墳より東南東へ約1,200m)などに使用されています。
 昭和53年(1978年)、道路工事中に石棺が露出し、そこから40点余りの鉄製品を含む豊富な副葬品が出土したことは驚きをもって伝えられました。その中で最も注目された副葬品が環頭大刀です。全長約95cmで、刀部は約73 cm、茎部は約22 cmで、グリップエンドに環状の装飾が付いています。環頭には鳳凰が表され、口ばしには金象嵌(象嵌:素材の表面に、他もしくは同種の材料を嵌(は)め込む技術)が施されています。このような貴金属で装飾を施した「装飾付大刀」は、多種多様なものが日本列島に流通しており、大之越古墳の環頭大刀は、製作技法と装飾の特徴から、朝鮮半島南部の百済もしくは伽耶での製作と考えられるそうです。(なお、日本列島で装飾付大刀の製作が本格化するのは6世紀後半とされており、562年の大伽耶の滅亡により工人集団が渡来したのが一因との説があります。)そして、環頭大刀は日本列島に舶載され、当時の中央政権(ヤマト政権)から大之越古墳に葬られることになる人物に与えられたのではないかと思われています。
 『大之越古墳発掘調査報告書』(山形県教育委員会/1979年)では、ヤマト政権においても第一級の宝器とみなすことができる環頭大刀のほか多数の副葬品があったことから、大之越古墳に葬られた人物とヤマト政権は、単なる文化の交流を越えた関係であり、ヤマト政権がかなり影響力をもって環頭大刀や刀剣などを賜与したという政治的な結合であったと推測しています。
 古墳時代において、日本海側の古墳の北限は山形県に当たり、だいたい庄内地方から山形盆地を結ぶラインとされています。これをヤマト政権の強い影響力が及ぶ北限と考えると、大之越古墳に葬られた人物は、東北地方への進出をもくろむヤマト政権と密接に結びつき、最前線に立って重要な役割を担っていた山形盆地の首長とは考えられないでしょうか。大之越古墳の環頭大刀は、当時のヤマト政権と山形をグルーバルかつダイナミックに結び付けてくれます。この環頭大刀と並んで、全長約84 cmの鉄剣、全長約82 cmの鉄刀、鉄鏃(やじり)16本なども展示しています。時を超えて当時の山形の姿に思いをめぐらせていただければと思います。

 プライム企画『女神たちの饗宴 ―「縄文の女神」国宝指定10周年―』の開期は、残り1か月を切りました。皆さまのご来館をおまちしております。そして、常設展示にも改めてご注目ください。

※ 大之越古墳の環頭大刀の図版については、下記アドレスからご覧ください。
   https://www.yamagata-museum.jp/treasures/dainokoshi-kofun

※ 大之越古墳の様子。2番目の写真の中央が富神山です。

<参考>
・『大之越古墳発掘調査報告書』(山形県教育委員会/1979年)
・橋本英将「大之越古墳出土の環頭大刀について」(山形県立博物館『出羽国成立以前の山形』2011年)
・金宇大「刀剣から読む古代朝鮮と倭」(古代歴史文化協議会『第4回古代歴史文化講演会 資料集』2019年)

「縄文の女神」がたくさんいます

 10月9日は何の日でしょうか? 縄文文化の魅力を広める活動をしている任意団体の「土偶の日運営委員会」(現 縄文ドキドキ会)が、10月9日を「土偶の日」という記念日にしようと提唱しました。語呂合わせで、土(10)偶(9)と読めるからのようです。
 
 さて、当館が所蔵する土偶と言えば、真っ先に「縄文の女神」を思い浮かべると思います。ところで、県立博物館には、縄文の女神が何体設置されているでしょうか?
 もちろん本物は一体ですが、館内には多彩なレプリカなどを常設し、ふだんから縄文の女神をより身近に感じたり、触って形を把握したりできるよう工夫しています。いくつかご紹介しましょう。

 まず正面玄関では、木製の「縄文の女神」が皆さんを出迎えます。これは分館である教育資料館にあったモミの木から作られました。立ち枯れの状態になり、倒木の危険があったため、上山市の株式会社三共造園に伐採していただいたのですが、代表取締役の井上睦夫さんの考案で制作していただいたものです。全長は2メートル60センチメートルで、重さは約600キログラムもあります。

 次からは館内に設置している女神たちです。白い「縄文の女神」は、東根市の神町電子株式会社が、自社の3Dプリンターで制作してくれました。アクリル系樹脂製のモデルです。実物大ですが、重さは実物より約1キログラム軽く、制作には65時間かかったそうです。現在、触れる状態にして展示しています。同じスタイルを触って実感することができます。

 次の光る「縄文の女神」は、村山産業高校の生徒さんが、校内のレーザー加工機を使って裁断し、組み合わせて作ってくれたものです。鏡面状のアクリル板材によって近未来的な姿を見せています。附属のケースの上下からは、フルカラーに点滅する県産有機ELに照らされ、幻想的な空間を醸し出します。写真以外のカラーも表現されています。

 青銅製の「縄文の女神」もあります。金属ならではの重厚感が、写真でも分かりますでしょうか。

 これらの女神たちは、博物館のどこかに設置しています。来館の際は、ぜひ探してみてください。

 最後に紹介するのは、新庄神室産業高校の生徒さんが3Dプリンターで制作してくれたものです。ふだんは館長室に設置し、来客の方などをお迎えしていますが、イベントなどでも活用しています。

 現在開催しているプライム企画展『女神たちの饗宴 ―「縄文の女神」国宝指定10周年―』では、「縄文の女神」を含む全国で5点のみの国宝土偶(複製)と、県内外の縄文時代前期から晩期までの多彩な土偶を集めました。考古学の学術価値はもとより、縄文人が制作した美術作品と位置付けても極めて高い評価ができる土偶の魅力や美しさ、奥深さも感じていただけるような展示を心がけました。ご来館をお待ちしています。

プライム企画展の構成をご案内します。

 10月1日よりプライム企画展「女神たちの饗宴 ―「縄文の女神」国宝指定10周年―」を開催します。準備は順調に進んでいます。

 プライム企画展の展示は、全部で4部構成となっています。第1部は、「女神たちの饗宴」です。平成7(1995)年、長野県の「縄文のビーナス」が国宝に指定されてから、これまで5点の土偶が国宝に指定されています。国宝土偶(複製)5点を一堂に会し、土偶の持つ魅力や造形の美しさを感じていただければと思います。
 第2部は、「女神の降臨 ―舟形町西ノ前遺跡―」です。縄文の女神は、平成4(1992)年に行われた西ノ前遺跡の発掘調査において、4500年のときを経て姿を現しました。出土した様子や出土品を紹介し、どのような生活をしていたかについても見ていきます。
 第3部は、「縄文人の祈り ―集落と土偶―」です。山形県内の主な集落遺跡とそこから出土した土偶などを紹介しながら、豊かな自然の恵みを受けながら定住生活を営んだ縄文人の生活や精神などを見ていきます。
 第4部は、「山形の宝 ―みらいにつなぐ―」です。自然を敬いともに暮らすという想いや考え方は、現代まで受け継がれています。山形県内の国宝や文化的景観を紹介しながら、先人が作り上げた郷土の歴史や文化をつないで欲しいという願いを感じていただければと思います。

 まもなく公式ツイッターにおいて、連日見どころを紹介していきます。ご注目ください。

真室川町との「共創」

 8月28日をもって、特別展「発掘30周年・マムロガワクジラ、新生代の海を泳ぐ ~やまがた北部の古生物~」を無事に終えることができました。行動制限がない夏休みもあり、県内外から多数のご来館をいただきました。おかげさまで、コロナ禍以前に迫る来館者数となりました。また、新聞やテレビなど報道関係各社からは、期間を通して興味深くマムロガワクジラを取り上げていただきました。誠にありがとうございました。

 さて、今回の特別展では、発掘地である真室川町当局と早々に連携・協働して、「新しいこと」や「新しいもの」をつくり出すことができました。
 例えば、一つ目は新しい学びで、マムロガワクジラを素材とした地域学習です。真室川町立小中学校において、担当学芸員が出向いた出張授業や、当館への見学と解説を行い、マムロガワクジラを題材に、地域をより深く理解する学習を展開することができました。内陸である真室川町から、たくさんの海棲生物の化石が発見される意外性から始まり、クジラの進化や盆地の成り立ちなどを興味津々に学んでくれました。さらに、この学びを踏まえ、児童生徒によるマムロガワクジラ絵画展という連携事業を実施することができました。
 二つ目は新しい町資源の創造であり、マムロガワクジラを活用した地域活性化の取り組みです。一例として、真室川町を含む最上地方には、「くじら(くぢら)餅」という古くから伝わる郷土菓子があります。真室川町が町内の菓子店と協力して、「マムロガワクジラのくぢら餅」を製作しました。マムロガワクジラとくじら餅を掛け合わせた新商品です。さっそく8月3日と28日、当館において新田隆治町長から来館者へプレゼントするイベントが行われました。県外からの来館者は、真室川町とくじら餅を初めて知った方も多く、マムロガワクジラを関連付けながら覚えていただく機会となりました。町のPRにも一役買うことができました。他にも、真室川町からは発掘地点に案内掲示を設置していただいています。

 当館が掲げる博物館の役割の一つに、「新しい価値を創造する施設」があります。特別展の共催であった真室川町とは、「連携」「協働」を深めながら円滑に取り組みことができました。さらに一歩進めて、新たな価値を「共創」することができたと自己評価しているところです。

 さて、次の企画展示会は、10月1日~12月11日を開期としたプライム企画展になります。その準備のため、現在、第3展示室は閉鎖となっています。9月30日までは、第一、第二展示室のみの開館となりますので、ご了解くださるようよろしくお願いします。

※ くじら(くぢら)餅については、以下に説明がありますので、ご参照ください。

https://www.pref.yamagata.jp/020026/kensei/joho/koho/mailmag/pride/kujiramoti.html

山形市立第七小学校5年生の皆さんの作品群をご覧ください!

 当館は、霞城公園と呼ばれる国指定史跡山形城跡の中に設置されています。霞城公園は四方を山形城二の丸の堀によって囲まれており、当館へ来館される場合は、東西南北にそれぞれある門を通っていただくことになります。ご注意いただきたいのは、車(自転車を除く)が通行できるのは北門のみです。

 その北門から200メートルも満たない北側に、山形市立第七小学校(以下、「山七小」)があります。当館の「ご近所さん」であり、山七小にとって当館は学区内にある施設になります。
 山七小の第5学年では、今年度の総合的な学習の時間について、「ぼくらみつばち学芸員~大好きな博物館の魅力を広めよう~」をテーマとされました。年間を通して来館され、博物館の活動や展示収蔵の資料、学芸員の仕事などについて調べたりしながら理解を深め、さらに学芸員の技能を身につけ、冬の時期には「一日学芸員」として実践できるよう取り組む内容です。併せて、当館の魅力などについて情報発信していただけるようです。
 児童の皆さんは、来館のたびに新たな興味、気づきを示してくれ、次々と疑問が沸き起こって職員へ積極的に質問するなど、熱心に取り組んでくれています。山七小が学校全体で育む資質・能力は、「問題発見、解決能力」「言語能力」「情報活用能力」「協調性」が重点ということですので、それを踏まえながら当館も一助となるよう努めていきたいと思います。

 ところで、現在、JR山形駅から東口大通り沿いに歌懸稲荷神社の境内にかけて、山形花笠まつりや夏休みなどで観光客が多くなる時期に合わせ、子どもたちや企業などの願いごとや歓迎の言葉、絵などを描いたちょうちんが飾られています。山七小第5学年児童の皆さんは、何と!当館の紹介文やイラストなどを描き、さっそくPRしてくれています。本当にありがとうございます。観光客と思われる人たちが立ち止まって観ていたり、写真を撮っていたりと、絶大なPR効果を発揮しています。お気に入りの展示資料のイラストや、クイズ形式にした解説など、児童の皆さんが工夫をこらした作品群で、JR山形駅の自由通路やペデストリアンデッキを中心に設置してあります。ぜひご覧ください。

そもそもマムロガワクジラとは?

 今月4日より、特別展「発掘30周年・マムロガワクジラ、新生代の海を泳ぐ ~やまがた北部の古生物~」が始まりました。おかげさまで、多くの方々からご来館いただいています。

 今回は、「そもそも、マムロガワクジラとは何か?」についてです。
 「マムロガワ」は、山形県北部に位置する真室川町のことです。山間部の道路の法面で大きな骨の一部が見つかり、1992年より1994年にかけて、当館が約600万年前の大型の鯨化石を多数発掘しました。マムロガワクジラという鯨の種類がある訳ではなく、このとき発掘した化石群の総称として、「マムロガワクジラ」と呼んでいます。

 鯨は、大きく「歯鯨」と「ヒゲ鯨」の2グループに分けられます。発掘したマムロガワクジラはヒゲ鯨が多く、ナガスクジラやセミクジラなどが識別されました。歯鯨のマッコウクジラも識別でき、多種類の鯨が生息していたようです。当時の新庄盆地一帯の海は、鯨が住みやすい環境だったのでしょう。大型の個体が多く発掘されたのも特徴的です。

 発掘されたマムロガワクジラの個体数は、まだ確定できていません。さまざまな部位があり、そして不完全な骨格も多いためです。最小で9個体、最大で45個体の集合体で、おそらく数十個体の鯨になると思われます。これほど多数の鯨の個体数が集中して発掘された例は、国内ではほとんどありません。とても貴重な記録を公開しています。

 7月2日(土)の13時30分から14時までの時間帯で、当館学芸員による解説会を開催します。実際の発掘にも携わっており、当時のエピソードを交えて解説します。ホームページからの事前申し込みとなりますので、該当ページをご確認ください。

頸椎(けいつい)の化石です

附属自然学習園での「大人の遠足」

 県立博物館には、附属施設として自然学習園があり、自然学習の場を提供しています。山辺町畑谷の「県民の森」にある琵琶沼を中心に開設しています。

 この一帯は、クリ、ミズナラ、アカマツなどの林に覆われ、琵琶沼にはホロムイソウ、ヒメカイウといった氷河期からの生き残りと言われる植物があり、動物では両生類のクロサンショウウオ、モリアオガエルや、昆虫類のなかではアオイトトンボ、ハッチョウトンボなど20種類以上を産するなど、貴重な生態となっています。このように自然のままの姿が残され、貴重な動植物が分布している湿原であることから、昭和53年(1978年)に県の天然記念物に指定されました。

 また琵琶沼を含む周辺は、白鷹山の山麓の海抜約600メートルに位置し、畑谷大沼をはじめ荒沼、曲沼など数十か所の湖沼群があります。山形県立博物館『平成6年度 琵琶沼緊急調査報告書 -地学・動物-』(1995年)によれば、もともと白鷹山の主峰は、現在よりも北に中心があり、今より標高が高い火山であったと考えられています。しかし山体崩壊が発生し、さらに地すべりなども起きながら、現在の地形が形成されていったようです。西黒森山、白鷹山、高森山からなる稜線は、カルデラの地形を示しており、琵琶沼からは西~南側になります。

 このような環境のもと、自然学習園は、動植物や地形など自然系における豊かな学習を提供する施設です。今年度も、6月25日に「大人の遠足 夏山歩 琵琶沼自然観察会」を企画しました。申し込み締め切りは、6月11日(土)です(ただし定員になり次第終了します)。詳しくは、該当のページをご参照ください。

特別展を観ればクジラ博士に!

 特別展「発掘30周年・マムロガワクジラ、新生代の海を泳ぐ ~やまがた北部の古生物~」が始まりました。最初の来館者は、茨城県にお住いの方でした。遠路からお越しいただいて、大変ありがたいものです。順調にスタートが切れました。

 本県北部に位置する真室川町において、1992年より1994年にかけて新生代約600万年前の大型のクジラ化石(マムロガワクジラ)が当館によって発掘されました。今年は最初の発掘から30年となる節目もあり、全化石を公開して、その全容と調査・研究の成果を紹介します。
 展示資料は、約230点に上ります。入口を過ぎると、島展示されたマムロガワクジラの化石群がお迎えします。島の中心に設置された巨大な頭部や顎は、重厚感あふれ見応え十分です。
 また、マムロガワクジラ以外のクジラも多種紹介しています。解説も工夫していますので、クジラの「ミニ博士」になれる絶好の機会です。ご来館をお待ちしています。
(公式ツイッターも、引き続きチェックしてください。)

右の下顎骨の化石です

特別展の準備が進んでいます

 いよいよ今週末から、特別展「発掘30周年・マムロガワクジラ、新生代の海を泳ぐ ~やまがた北部の古生物~」が始まります。
準備は佳境に入っています。クジラは大きな生き物ですので、その化石の重さとなると、「石」ゆえに、相当半端ないです。職員総出(もちろん館長や副館長も)で、互いに声を掛け合いながら、収蔵庫から展示室まで運び込みます。頭など部位によっては、数人がかりで何とか動かせるほど重い化石です。時に汗をぬぐいながら、今も鋭意準備を進めているところです。
(※博物館職員には、体力勝負の業務がたくさんあります。博物館勤務を志望している方は、ご承知おきください。)
当館が発掘したマムロガワクジラの化石をはじめ、カイギュウやシャチなど大型の哺乳類を中心に、海棲生物の化石を一挙公開します。重量感、重厚感ともにあふれる化石群にご期待ください。

公式ツイッターにおいては、連日見どころを紹介しています。まだまだ紹介は続きますので、引き続きツイッターもご覧ください。

正面入り口に看板が設置されました

芝桜の香り

 4~5月、ピンクや紫の絨毯のように鮮やかに芝桜が咲き広がっている光景をあちこちで見ることができます。山形市と天童市の間を流れる立谷川河畔の芝桜は、名所になりました。
 県立博物館においても、ピークを過ぎた感はありますが、正面を中心に、まだ芝桜が映えています。芝桜を背景にして、お連れを撮影する方もいて、この季節限定の来館記念の撮影スポットになっているようです。

 ところで、芝桜の香り(匂い)を感じたことはありますか? 芝桜は、地面を這うように生える植物のため、大抵は足下くらいの高さで咲いていることが多いです。よって、しゃがみこんだりしないと、花の香りは感じにくいと思います。マスクをしている今は、なおさら気付きにくいでしょう。
 県立博物館は、駐車場から出るとアプローチ部分の最初に階段が9段あり、それを登ったスペースに花壇があります。そのため駐車場からは、ちょうど大人の顔くらいの位置に芝桜が生える高さになります。そばに近づくと、マスク越しでも花の香りが感じられ、豊かな気持ちになります。この季節でしか味わえない館長お薦めスポットの一つです。今週末でも十分楽しめると思います。

 今週末といえば、セレクション展の最終日になります。多くの来館をお待ちしています。

まもなく常設「近代山形くらしのうつりかわり」の展示が休みに入ります

 現在、第3展示室においては、東半分のスペースを使って「第4回やまはくセレクション展」(5月15日まで)を開催しており、西半分では「近代山形くらしのうつりかわり」をテーマにした常設展示を行っています。

 常設展示「近代山形くらしのうつりかわり」は、山形県の誕生から現代にいたるまで、近代化していく山形の姿や、そのなかで伝統を受け継ぎ発展させていこうとする人びとのくらしを展示しています。「街角の風俗」「山形の郷土玩具」「雪と山形」「山形のやきもの」を柱に構成しています。くらしに密着したテーマで、懐かしい生活用具もたくさん展示しています。

 実は第3展示室については、6月4日から始まる特別展「発掘30周年・マムロガワクジラ、新生代の海を泳ぐ」の会場となりますので、セレクション展の終了後、セレクション展とともに西半分の常設展示も撤収作業に入っていきます。常設展示の再開は、12月中旬の予定です。約半年は見ることができませんので、ご承知おきください。

 セレクション展の開期とともに、休止までの常設の展示期間もわずかとなりました。新緑が映える景色とともに、博物館の展示をお楽しみください。

春の大型連休

 山形県立博物館が立地する霞城公園は、桜吹雪の舞が終わり、芝桜やタンポポなどの花が広がっています。これからは若葉の香りが漂う季節に入っていきます。
 いよいよ春の大型連休がスタートします。過去2年と違って、山形県では、現在、県独自の感染防止対策は出されていません。ただし、来館される皆様には、引き続き、不織布マスクの着用や、消毒、一定の距離を保ちながらの見学など、基本的な感染防止対策の徹底について、ご協力をお願いします。

 現在開催している「第4回やまはくセレクション展」の開催日数は、残り少なくなってきました。5月15日(日)までとなっています。
 これまでの来館者アンケートを見ると、好評をいただいているようです。興味深かった展示資料を選ぶ項目では、7部門(地学、動物、植物、考古、歴史、民俗、教育)から、まんべんなく挙げていただいています。皆様の多様な興味関心に、当館として応えられているのではないかと実感しています。また、アンケート上には「万国一覧図では、当時の人々がどう世界を見ていたか、どれくらい日本を知っているのか見ることができて面白かった」「琥珀の中に虫がいるのに、意外なサイズ(小ささ)に驚きました」とのコメントもあり、「実物」から感じ取った率直な感想もいただいているところです。

 明日からの大型連休などを利用して、当館の展示会と若葉が芽吹く霞城公園をお楽しみください。ご来館をお待ちしています。

教育資料館(分館)の構造躯体

 3月16日の深夜に、宮城県沖を震源とする地震が発生し、山形県内においても広く各地で震度5レベルの揺れが観測されました。東日本大震災以降、私自身としては最も揺れを感じた大きな地震でした。
 地震の発生後、直ちに本館、分館の状況確認を行いました。分館である教育資料館は、ルネサンス様式を基調とした木造二階建てであり、明治34年(1901年)の建築です。国の重要文化財に指定されています。何かしらの「損傷」「被害」の可能性が頭をよぎりましたが、建物も展示資料にも被害は全くありませんでした。
 実は、分館の建物は、揺れによるねじれを考えた造りになっています。例えば、内部の天井や床は、斜めの板張りにしていますが、筋交いの効果を持ち、構造躯体の強化にも役立っているといわれています。なお、天井と床の両方とも斜めにした建物は、ほかに例を見ないようです。ここだけで見ることができる貴重な資料です。
 見た目にも美しい板張りです。ぜひお越しいただいて、直にご覧ください。分館も見どころが満載です。

※ 斜めにすることで、コストは約倍になるそうです。

須川の埋没林

 現在、当館の正面玄関前に、「埋没林」を展示しています。埋没林とは、何らかの原因によって、森林が地中や水中に埋没したもので、化石となった状態で発見される例が多いです。このたび展示している埋没林は、昨年7月2日及び9月6日、山形市桜田西5丁目付近の須川河岸から2本発掘したものです。なお、須川の埋没林は、すぐ上流の谷柏地区や黒沢地区、上山市宮脇地区でも発見されており、かつて山形大学が谷柏地区の埋没林の年代を調査したところ、約2万7千年前であることが判明しました。展示している埋没林も同世代と考えられます。

〈発掘前の埋没林〉

 これらの埋没林は、エゾマツのような針葉樹林と思われます。エゾマツは主に冷涼な亜寒帯に分布していますが、2万7千年前は、最後の氷河期(第四紀の最終氷期=約7~1万年前)の最寒冷期に当たっており、年平均気温は現在より6~8度も低く、当時の山形盆地は現在の標高千メートルに相当するような寒い気候でした。山形盆地には、湿地や沼地がまだ広くあり、亜寒帯針葉樹が茂る森林になっていたと考えることができます。このころの山形県でも、旧石器時代の遺跡が発掘され、人間の営みが確認されています。また、ナウマンゾウなど、今は絶滅してしまった大型の獣も県内に生息していた時期です。
 では、どのようにして埋没林ができたのでしょうか。このことについては、当館職員の長澤一雄学芸員が「山形市須川河床に現れた後期更新世の埋没林の発掘」(『山形県立博物館研究報告』40号/2022年)にまとめています。そこから紹介しますと、まず埋没林として残った部分は、川岸の地層などから見ると、シルトや泥炭層の中に保存された部分であったようです。当時は、まだ湿地や沼地が多く、粘土層の堆積があって、それが乾燥して土壌が形成され、樹木が生育していたと思われます。しかし、何かしらの原因で環境が変化して冠水したため、樹木は死んでしまいましたが、泥炭層で覆われた部分は保存され、泥炭層ではなかった部分は乾燥や風化などで失われ、その上に河川の礫が堆積したと考えられます。やがて、河川等の侵食によって、覆っていた砂礫や泥炭層などが取り去られ、須川の河床に埋没林が、化石樹木の状態で出現したと思われます。
 須川の埋没林は、旧石器人の活動の早い時期における、山形盆地の気候、環境や、大地の成り立ちを知る手掛かりになる貴重な資料と考えられます。例えば、発掘してみたところ、いずれの埋没林も根は浅く、側方へ太い根を発達させていました。このことから、当時の地下水位が高かったことが推定できました。
 気候変動や自然災害などによって、亜寒帯から現在のような自然環境へと変わっていきました。埋没林は、これまでの自然環境の変動を物語っています。また、厳しい自然環境に耐えながら、2万年以上も存在し続けた埋没林に、自然の力強さを感じ取ることができるのではないでしょうか。

〈正面玄関前に展示している埋没林〉

今年度の新企画を少しだけ紹介します

 今週に入って山形市も気温がぐんぐん上がり、春の陽気に誘われてか、当館がある霞城公園でも、散策やジョギングする姿がたくさん増えてきました。心地よい季節となり、本日、山形県立博物館に新任となった職員は、梅の花に迎えられての着任となりました。

 今年度最初の「博物館ブログ 館長室より」は、当館の三大企画展示会である「特別展」「プライム企画展」「やまはくセレクション展」から、令和4年度の新企画を少しご紹介します。
 特別展については、6月4日から8月28日までの予定で、「発掘30周年 マムロガワクジラ、新生代の海を泳ぐ ~やまがた北部の古生物~」を開催します。当館が発掘してから30周年を迎えたマムロガワクジラの全標本を公開します。また、同時に発掘したサメ類や貝類などの化石や新庄盆地の多様な化石を展示して、クジラが生息していたときの古環境を考察していきます。また東北地方の主要な化石を比較展示して、古生物学への理解を深めます。
 そしてプライム企画展は、土偶「縄文の女神」が国宝に指定されてから10周年となり、国宝に指定されている他県の土偶4体にも注目しながら、縄文人の生活などに迫る展示会を企画しているところです。期間は、10月1日~12月11日の予定です。
 これら展示会についての新しい情報は、準備の進捗に応じて、本ホームページや公式ツイッターなどで随時お知らせしていきます。

 現在は「第4回やまはくセレクション展」を開催しています。5月15日までの展示会です。陽気に包まれた季節を楽しみながら、ぜひ当館へお越しください。

「第4回やまはくセレクション展」が始まりました。

 毎年、当館では、特別展、プライム企画展、やまはくセレクション展という三つの大規模な企画展示会を開催しています。いよいよ本日より、第4回目となる「やまはくセレクション展」が始まりました。

 セレクション展とは、博物館活動の重要な柱である資料の収集、調査・研究の成果の一端を紹介するものです。県民のみなさまからご寄贈いただいた資料や整理を終えた収蔵資料の中から、興味深いと思われる資料を選んで展示します。また、調査・研究を進める中で明らかになった新たな知見など、資料に秘められた貴重な情報もあわせて紹介します。主な展示資料については、セレクション展のページでご確認ください。公式ツイッターでは、各部門の担当者が、連日交代しながら目玉となる資料を紹介しています。

 また、今回のセレクション展では、天童市立高擶小学校、県立山形東高等学校と連携し、展示資料に関係した2校の研究活動も紹介しています。児童生徒のみなさんの研究成果にもご注目ください。

 3月に入り、山形市も気温が上がって晴れ間も増え、だいぶ雪が解けています。当館がある霞城公園でも、春の気配に誘われてか散策やジョギングする姿が増えてきました。陽気に包まれた季節を楽しみながら、ぜひ当館へお越しください。「第4回やまはくセレクション展」は、5月15日(日)までの開催となっています。