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地学と自然史と博物館

 3月24日(日)にやまぎん県民ホールにて、やまがた文化の回廊フェスティバル2024のオープンハウスに「ビーチコーミングで貝殻を拾おう!浜辺から考える自然環境」と題してイベントを開催致しました。

入口の近くということもあり、多くの方々にご参加いただき、誠にありがとうございました。

今回のイベントは、庄内浜をイメージしまして、庄内浜で打ちあがっていた貝殻とゴミから、自然環境に関心を持っていただくというコンセプトでした。

 砂の中に埋まった貝殻を探す体験は、中々新鮮だったようで、ご参加いただいた方からは好評でした。

イベント中にありました、いくつかの質問につきまして、回答いたします。

Q.どこに行けば貝殻を拾えますか?

A.庄内浜でしたら、吹浦や宮海海水浴場で拾えます。海水浴シーズンになると海岸を掃除しておりますので、貝殻が減ります。これからの5月上旬位が寒くないし、月山道も凍結していないのでベストシーズンです。

Q.貝殻を拾ったけど、名前が付けられない。

A.慣れと言えばそこまでですが、まずは図書館などにある貝の図鑑を参照すると良いでしょう。初めから分厚い図鑑から探すと心が萎えるので、子供向けの写真が大きい図鑑をお勧めします。そこからさらに貝殻の沼にはまり込んだら、ご自身で図鑑を購入しましょう。

Q.博物館に持っていったら、名前を教えてくれますか?

A.可能なかぎり名前を付けるお手伝いをさせていただきます。その際は、事前に博物館にご連絡いただくとスムーズにご案内ができます。


 令和5年度やまはくセレクション展を5月12日まで開催しております。今年度のセレクション展の地学のテーマは、「自然史」です。ところで皆様は自然史と言う言葉を聞いたことがありますか?

 恐らく多くの方は、「う~ん、聞いたことがあるような、無いような・・・」と言った反応になるのではないでしょうか。皆様の中にはご専門の方もいらっしゃるとは思いますが、一般にあまり馴染みのないことと思います。

 まずは、自然史についてどんな意味なのかをこの場ではお答えするべきですが、自然史には、あまり明瞭な定義がありません(私の不勉強なだけですが)。ここでは自然史=自然史科学と言う広義の学問で、「動物や植物、鉱物、化石などの自然物」を対象として、「記載・分類する」ことで、「自然の多様性を紐解く」ことを目指しているとします。では、ここで自然史と博物館の関係について、少々述べたいと思います。

 山形県立博物館は、展示資料による分類上で総合博物館に分類され、自然と人文の両方の資料を展示しています。人文の展示は「縄文の女神」をはじめとした、第2展示室と第3展示室および教育資料館に展示しております考古、歴史、民俗、教育部門の資料です。対して、自然の展示は「ヤマガタダイカイギュウ」をはじめとした第1展示室と1階の分類展示と体験広場に展示しております地学、植物、動物の資料です。自然の資料のことを博物館学等では「自然史資料」と呼ぶことがあります。ようやく博物館と自然史が繋がってきたとようです。例えば自然史が博物館に冠される例として、ロンドン自然史博物館(Natural History Museum, London)があります。また、博物館の資料群を「コレクション」と呼ぶことがありますが、ロンドン自然史博物館では「動物、昆虫、古生物、植物、鉱物」と分けられています。国内でもいくつか自然史を冠している博物館がありますが、神川県立生命の星・地球博物館がKanagawa Prefectural Museum of Natural Historyと表記しております。ちなみ東京上野の国立科学博物館はNational Museum of Nature and Scienceなので、自然史も扱っていますが、理工学の分野の展示もあります。余談ですが、日本における国立自然史博物館は、現時点(2024年現在)で無いため、沖縄県に誘致しようとしております。気になったら調べてみてください(https://www.okinawanhm.com/)。

 さて、山形県の話から大分逸脱しましたが、山形県立博物館に話を戻します。山形県立博物館の地学部門では、資料の対象を「古生物、岩石、鉱物等」としております。これらは山形県に関する資料から世界の資料まで、それなりに幅広く展示しております。特に1階の分類展示では、教科書に載っているような資料を中心に展示しておりますので、是非地学の教科書を片手に見学いただければ面白いと思います。

 ここで話を体験広場に展示しているクロミンククジラの骨格標本に移します。体験広場に展示していますクロミンククジラは、現生のクジラですので、対象は生き物(動物部門)となります。ですが、所管しているのは地学となります。なぜ地学が今生きている動物を?と思った方は、大変鋭いご指摘です。では、仮に皆様が体験広場のクロミンククジラの前に立っていたとして、視線を下に移すと何が展示してあるか。そこには「ごっつい岩」がたくさん展示してあります。これらの「ごっつい岩」は、真室川町から発見された「マムロガワクジラ化石」です。マムロガワクジラ化石と言いましても、クロミンククジラの骨格のように1個体ではなく、様々なクジラの色々な部位が1か所から産出したものとなります。そのため、化石は部位毎に不完全です。ではそんな不完全な化石をどうすればクジラと分かるのか?答えは、今生きているクジラの骨と比較して記載することです。自然史は「動物や植物、鉱物、化石などの自然物」を対象として、「記載・分類する」ことで、「自然の多様性を紐解く」ことと初めに書きましたが、もし、世界に1つしかクジラの骨がなかったら、きっとマムロガワクジラ化石はクジラだと分からなかったと思います。

 もう一つの例を挙げますと、山形県立博物館地学部門の目玉であり、県指定天然記念物の「ヤマガタダイカイギュウ」ですが、発見当初はクジラの化石と思って発掘されました。それは、発掘当時、日本ではカイギュウ(ジュゴンやマナティーの仲間)の化石は、長野県で肋骨が一本だけしか発見されておらず、いわば化石記録の空白状態でした。しかし、実際に発掘した化石をクリーニング(化石から余分な岩石を取り除く作業)を進めるうちに、クジラにはない「歯」が出てきました。マッコウクジラやイルカなどの「ハクジラの仲間」には、餌である魚などを捕らえるための、歯がありますが、捕らえるための機能として、先端が尖っています。一方、クジラと思って発掘したヤマガタダイカイギュウの歯は、上面がすり減り、明らかに何かをすり潰す機能を持つ歯でした。ここに来てようやく、この化石の正体はクジラではないことが分かってきました。そして、紆余曲折あり、このすり減った歯の持ち主が、カイギュウの仲間であると分かり、アメリカからドムニング博士を招聘し、この世界に1つだけのヤマガタダイカイギュウが誕生しました。ここで勘の鋭い皆様は「世界に一つだけなのに何故分かった?」と気が付いたはずです。このヤマガタダイカイギュウと比較したのが、アメリカ西海岸からヤマガタダイカイギュウよりも前に産出していたジョルダンカイギュウでした。そして、実は現在展示してあるヤマガタダイカイギュウもジョルダンカイギュウから引き継いだ部分があるのですが、紙面の都合上、割愛させていただきます。

 博物館は、そんな自然史の「コレクション」を育てることが必要です。足元の石が何か知りたいと思って、図鑑を見ると図鑑の写真とは合わないことは多々あります。近年ではスマートフォンのカメラで知りたい物の写真を撮ると「先生」が答えてくれるようになりました。しかし、その「先生」は、きっとどこかの誰かが記載・分類した「何か」としか答えてくれません。それは真か偽であるかは、ここでは申せませんが、はっきりしていることは、どこかの誰かが記載・分類する時には、「コレクション」を見て、他の種や物質との違いを見極め、時には新種として記載し、時には異名(シノニム)として統合し、時には記載した本人が混乱し、時には捨てる(ゴミ箱分類群)ことを膨大な時間をかけているのです。その時に「地域の分類群」を知ることとして、博物館には地域に関する「コレクション」を育てていくことが求められます。そして、丹精込めて育てられた博物館のコレクションは、展示や調査・研究を通じて、皆様の教育に役立てていきます。

 令和5年4月1日から約70年ぶりで博物館法が改正となり、デジタルアーカイブの作成と公開が努力義務となりました。山形県立博物館でも博物館資料をデータベースとして公開しておりますので、是非活用いただければと思います。

 さて、自然史と博物館について短いながら、書かせていただきました。博物館は、単なる古いものを展示しているだけでも、イベントをするだけでもありません。もちろん、皆様に楽しんでいただけるイベントの実施を全力で取り組んでいますが、もっと皆様に博物館を「活用」して欲しいと思います。ちょっと困ったら博物館に行ってみるかと思えるような山形県立博物館を今後も目指して参ります。

 最後に地学部門担当の学芸員の思いを綴り、結びとさせていただきます。

諸君、私は地学が好きだ

諸君、私は地学が好きだ

諸君、私は地学が大好きだ!!

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